吾輩は主である。

吾輩は主である。名前はもうない。

ラウ「なにを一人で不気味にボソボソ喋ってるんですか?」

レアンドル「ラウ、主のあれはいつものだから気にするな」

主「ちょっと待ちなさい、主の扱いが軽いよー?」

レアンドル「失礼しました。おやつの用意ができましたよ、主」

主「わーい、たべるー」

ラウ「主がちょろくて心配ですよ僕は(押し倒したらいけそう)」

レアンドル「ラウ、不敬が過ぎるぞ(お前それはやめろ)」

主「うまぁーーー」

吾輩は主である。002

主「すー………」

ラウ「主ー?って、寝てる」

レアンドル「あ、またか。主、ベッドで寝てください」

主「ん……レア、だっこー」

レアンドル「はいはい、まったくこの人は」

ラウ「………」

レアンドル「どうしたラウ、そんな顔をして」

ラウ「え、いや、なんでもありません」

レアンドル「……?変な奴だな」

ラウ「僕だって大きくなったら……」

主「……」

ラウ「……よいしょ」

レアンドル「ラウ、何をしている」

ラウ「添い寝を」

レアンドル「やめろ」

――――――――

主「あ、あー………ぁ、っ」

ラウ「はわ………」

ギシ ギシ ギシ

レアンドル「…………」

ギ ギ ギシ

主「ぅあっ……あ、…そこ、ん…」

ラウ「……わ、うわ…」

レアンドル「……………主」

主「……ん?…なに?」

レアンドル「マッサージ中はお静かに」

主「なんで」

レアンドル「見学中のラウの教育に悪い感じになります」

ラウ「…………」

主「お、おう…?」

レアンドル「あと少しで終わりですからね」

主「はーい」

ラウ「……」

レアンドル「……」

レアンドル「はい、終わりです」

主「ありがとねーレアンドル」

レアンドル「はい。では俺はこれで。あとは任せたぞラウ」

ラウ「はい」

・・・自室に戻った途端にうずくまるレアンドル。

レアンドル「……はーーー……」

――――――――

主「ラウ………もう我慢できない」

ラウ「なっ!?ど、どういう意味ですか主!僕はそういうことはまだ早いと思います!」

主「そういう意味じゃなくて。一緒に寝よう」

ラウ「え、それならいいですよ。なんだ、びっくりしました。……はあ!?」

主「よし、寝るか」

ラウ「ままま待ってください!!な、何言ってるんですか!?そ、そんな破廉恥なことダメに決まってます!!」

主「別に何もしないよ」

ラウ「本当でしょうね……?」

主「うん」

ラウ「……」

主「ほら、おいで」

ラウ「……」

主「おやすみ、ラウ」

ラウ「……おやすみなさい」

吾輩は主である。003

ラウ「主、今日の夜は、あの、お話があるのですが」

主「お、なに?」

ラウ「その、お、大人になる方法についてです」

主「大人に?どうして?」

ラウ「ぼ、僕は早く大きくなりたいんです」

主「ふむ?」

ラウ「それで、主と同じ歳になった時に、主と釣り合うような立派な従者になりたいんです」

主「ラウ……」

ラウ「だ、だからお願いします、主、僕に大人のキスを教えてください!」

主「……」

ラウ「……」

主「……」

ラウ「…………あ、主?」

主「………ごめん、ラウ」

ラウ「えっ……いえ、やっぱり僕じゃ」

主「私も知らない」

ラウ「えっ」

主「でも大丈夫!なんとかしてあげる!レアンドルにお願いして私が『大人のキス』を教えてもらってくるよ!」

ラウ「ちょ、ちょっと待ってください!レアンドルさんに!?」

主「うん!」

ラウ「あ、あ、あ、あ」

主「じゃあ行ってくるね!」

ラウ「あ、あるじ〜……」

バン!とレアンドルの部屋に突撃する主

レアンドル「うわびっくりした…どうしたのですか?主」

主「レアンドル、私に大人のキスを教えて〜」

レアンドル「……………説明を求めます」

主「ラウが早く大きくなって立派な従者になりたいんだって、それで私に教わりに来たけど、私も知らないからレアンドルに教わろうと思って!」

レアンドル「……」

主「いい?」

レアンドル「……いいですよ」

主「わーい!」

レアンドル「ただし、俺も教えられるほど経験豊富ではありませんので、その点はご容赦下さい」

主「だいじょぶ!」

レアンドル「では、まずは体験していただきますね。……目を閉じて、主」

主「うん」

レアンドル「では、口を少し開けて下さい」

主「こう?」

レアンドル「そう、そのまま……失礼します」

主「ん……っ!?」

レアンドル「………」

主「ん……っ……んんっ!?」

レアンドル「……」

主「んんんんんん……!!」

レアンドル「……っはぁ……はい、終わりましたよ。これで、大人になった気がするでしょう?」

主「……はぁ……はぁ………」

レアンドル「あと……ラウはまだ子供なので、あまり急ぐ必要は無いと思いますが」

主「う、うん、そうだよね……」

レアンドル「……」

主「……」

レアンドル「……」

主「……レアンドル、もう一回……」

レアンドル「……主」

――――――――

コンコン ガチャ

ラウ「主、夜分に失礼します。ちょっと――」

レアンドル「ラウ!逃げろ!」

主「ラーウー!」

ラウ「え!?な、どうしたんですかレアンドルさんその格好…って、な、あ、主!?ひゃぁ!主、やめっあっ!」

主「ひゃーすべすべーもちもちーーラウはかわいいねーー」

ラウ「ぬ、脱がさないで!やあああん!!」

レアンドル「………ラウ、犬に噛まれたと思って、強く生きろ」

次の日、二日酔い主と怒りラウ。

ラウ「あ、あるじぃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

主「うわあああああ!ラウごめんなさいいいいい!」

ラウ「許しません!」

主「もう飲まないから!」

ラウ「絶対嘘だ……」

主「……」

吾輩は主である。004

主「おはよ」

レアンドル「本日は男性体なのですね、お召し物をご用意します」

主「よろしく」

レアンドル「……主、一つ聞いてもいいでしょうか」

主「なに?」

レアンドル「主は、その、男性体と女性体、どちらが本当の姿なのでしょうか?」

主「んー……どっちもかな」

レアンドル「両方……」

主「うん。こっちの姿は、人間だった頃の、一番楽しかった時の自分をその都度イメージしてるんだ。んで、イメージだからその時私が男の気分なら男、女の気分なら女ってなる」

レアンドル「そう、なんですね……」

主「あ、でも見え方だけで中身は違うよ。今の自分は、人間の時とは全然別の生き物だと思う。自分のことを『人外』って呼ぶのはおこがましいけど。こんなに長く生きてるのに、自分が一体なんなのかよくわからないんだよ」

レアンドル「主……」

主「ま、そんな話はいいや。朝ご飯食べよー」

レアンドル「はい」

主「今日は何?」

レアンドル「キッシュとガレットですよ」

主「おおーやった〜」

――――――――

ラウ「主、おはようござい、ま………」

主「………ん、おはよ」

ラウ「ほ、本日は男性体なん、です、ね」

主「おう、なんでこっち見ないの?」

ラウ「いやあの、服を……着て頂きたく…」

主「なんで君は女性体の私より男性体の私の裸に恥ずかしがるの?逆じゃない?ん?」

ラウ「あ、あああっ、ち、近い近い!」

主「んふふふーあーラウちっちゃいなぁ」

ラウ「きゃーーーっ!」

主「あー癒されるぅ……」

レアンドル「主、ラウをからかうのはやめてあげて下さい。服をお持ちしました」

主「ありがとーよいしょ」

ラウ「あう………あうう………」

レアンドル「ラウは潜在的に精神が女性寄りなのかもしれませんね」

主「ああ、なるほどね」

レアンドル「なので、可愛いのはわかりますが、程々にしておいて下さい。女性に無体をする男は嫌われますよ?」

主「あはは、はーい」

――――――――

主「レア」

レアンドル「何ですか、あr!?……ン……ふ……」

主「ん………ちゅ………はー、動揺しないなぁ」

レアンドル「……男性体の主はタラシですね」

主「そぉかなぁ、つってこの体であんま女の子と会わないからわかんないんだけど」

レアンドル「まあいいでしょう。用件はなんでしょうか?」

主「いや、なんにも?強いて言うならもう一回キスしたい」

レアンドル「お断りします」

主「えーケチ」

レアンドル「そういう問題ではないです」

主「けちんぼう」

レアンドル「……はぁ……まったく……」

主「えへへ〜この体でレアとキスするの面白いんだよなぁ、目線が合うから」

レアンドル「…………女性体の日に覚悟しておいて下さいね」

主「えっ」

レアンドル「なんでもありません」

吾輩は主である。005

レアンドル「主、お召し物をご用意しました」

主「ありがと、これ着るのも久々だね。まぁ、着たくもないんだけどさ」

レアンドル「………」

主「東で戦だそうだよ、帰りは…明け方かな」

レアンドル「御意」

主「寝てていいよ?」

レアンドル「お待ちさせて頂きます」

主「そう」

レアンドル「お気を付けて」

主「ん、いってくる」

――――――――

主「ただいま〜」

レアンドル「おかえりなさいませ」

ラウ「おかえ、り……!?!?!?」

主「どしたのラウ?」

ラウ「な、なんですかその傷!?」

主「ん?ああ、気にしないで」

ラウ「気にしますよ!?」

主「大丈夫だよ」

ラウ「……僕が治します」

主「ん?どうやって?」

ラウ「……治癒魔法を使います」

主「……へぇ、すごいね」

ラウ「……はい。だから、じっとしていて下さいね」

主「わかった」

ラウ「いきます………………あれ?怪我が、ない?」

主「返り血だからねぇ」

ラウ「……」

主「そんな顔しないの」

ラウ「……主、あの、お願いがあるのですが」

主「ん?」

ラウ「……頭を撫でてくれませんか?」

主「……」

ラウ「……やっぱりダメですよね」

主「湯を浴びてからでいい?ラウが汚れちゃう」

ラウ「今が!……いいです…」

主「……じゃあ、おいで」

ラウ「はい……」

主「よしよし」

ラウ「……ありがとうございます……」

主「ふふ、ラウは可愛いなぁ」

ラウ「……主も、かっこよくて、可愛いです」

主「……ん?」

ラウ「……いえ、なんでもありません」

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