(謎時空のナナシ♀と、どこかおかしいサカキ先生)
ナナシ「こんにちはサカキ先生」
サカキ「今日も来ましたね、ナナシさん。では早速ですが本題に入りましょうか」
ナナシ「ん?なんですか本題って?」
サカキ「とぼけないでください。貴方が私のことを嗅ぎ回っていることは知っていますよ。さあ、何が目的なのか言いなさい」
ナナシ「え?誤解ですよ、そんなことしてません。誓って。」
サカキ「しらばっくれるつもりですか……?まあいいでしょう。どうせすぐに全て分かるのですから(ニヤリ)」
ナナシ「な、なんか本当に勘違いされてる気が……ちがいますよ?…ちょっとカッコイイなって見てたのはほんとですけど」
サカキ「…………」
ナナシ「あれ?」
サカキ「(咳払い)コホンッ!失礼しました。ではまず、この世界についてお話しますね。この世界のことは何も知らないのでしょう?」
ナナシ「え?あ、はい…なんだったんだろう…?」
サカキ「いいですか?ここは『夢の中』です」
ナナシ「え、そうなんですか?…だったらサカキさんは私の夢の中の存在?」
サカキ「いえ、私は確かに存在していますよ。そして貴方もこの世界に存在している。ただし、実体ではありません。そうですね、例えて言うなら『夢の中で見る映像のようなもの』でしょうか」
ナナシ「なるほど…!えと、実体ではない、ということは、触れ合ったりはできないんですか?」
サカキ「その通りです。残念ながら」
ナナシ「……ほんとに残念ですね」
サカキ「そろそろ理解できましたか?この世界で私ができることを」
ナナシ「え?何ができるんですか?こうしてお話することはできますが、それ以外に?」
サカキ「はい。例えばこんな風に……(手を広げる)」
ナナシ「にゃ?」
サカキ「ほら、猫になったでしょう?」
ナナシ「んふふ……そうですね、私は猫になりました。サカキさんに撫でてほしかったな…」
サカキ「……」
ナナシ「サカキさん?」
サカキ「……いえ、なんでもありませんよ。話を戻しましょう。つまり、私はこうした能力があるということですよ。そしてそれは貴方も同じです」
ナナシ「私もあるんですか?どうしたら使えますか?サカキさんと手は繋げますか?」
サカキ「……手を繋ぎたいのですか?」
ナナシ「つなぎたいです、とても」
サカキ「……わかりました。ではこうしましょう。これから毎日1時間、私とお話しをする代わりに、1時間に1回だけ、私の願いを聞いてくれませんか?もちろん、嫌だと言うならば無理強いは致しません。約束して頂けますか?」
ナナシ「嫌というより…サカキさんのお願いならいつでも何度でも聞きたいですが?」
サカキ「では決まりですね。また明日会いましょう」
ナナシ「え、あ、えーー?」
サカキ「それでは良い夢を(微笑み)」
ナナシ「そんなぁ…」
サカキ「ごきげんよう」
ナナシ「……はい」
サカキ「本日も来ましたね、ナナシさん」
ナナシ「わ、すぐきた…はい!お願いはなんですか?サカキさん!」
サカキ「いえ、今日は特に何もありませんよ」
ナナシ「……やだあ、サカキさんのお願いききたい、命令されたい」
サカキ「(ため息)……仕方ないですね、ではこちらへ来てください」
ナナシ「わーい!……でも触れ合えないのは寂しいですねぇ…」
サカキ「まあ、いいじゃないですか。そんなことよりももっと楽しいことがあるでしょう?」
ナナシ「? どんなことです?」
サカキ「例えば、こういうことをしたりとか(服を脱ぐ)」
ナナシ「にゃっ?!」
サカキ「……なんてね(クスッと笑う)」
ナナシ「……びっくりしました!びっくりしました!もう!」
サカキ「ふむ、やはり貴方には効果がないみたいですね」
ナナシ「効果?あの、今のはどんな意味が…?」
サカキ「まあまあ、気にしないでください。それよりほら、私の身体をよく見てください」
ナナシ「えっ……あ、はい…なぜ?」
サカキ「よく見て、触って、感じて下さい。そうすればきっと、今よりもずっと強くなれますよ。さあ、早く」
ナナシ「強く…?でもこの空間は触れ合えないですよね?」
サカキ「ええ。ですから、頑張って感覚を研ぎ澄ませてみてはいかがですか?ほら、手を伸ばしてもいいんですよ?」
ナナシ「んふふ、そんな少年マンガみたいなこと言われると思いませんでした、じゃあ、そっと触りますね」
サカキ「えぇ、どうぞ」
ナナシ「ぺとー……っと、やっぱり通り抜けますねぇ」
サカキ「……何をしているんですか貴方」
ナナシ「にゃ?」
サカキ「まさかとは思いますが、ただ私に触ろうとしていたわけではありませんよね?」
ナナシ「ただ触ろうとしてましたごめんなさい」
サカキ「はぁ……まったく……(呆れ顔)」
ナナシ「うわん!呆れられた!でもそんな厳しいところもカッコイイです先生」
サカキ「……(無視)」
ナナシ「にゃー!にゃーあ!にゃあーー」
サカキ「……(冷めた目)」
ナナシ「せんせ、せんせぇ……やだ、やだぁ……そんな目で見ないでぇ」
サカキ「……(蔑んだ眼差し)」
ナナシ「………もしかして、楽しんでます?」
サカキ「いえ別に(真顔)」
ナナシ「にゃあーーー!!!……真面目にします、真面目にしますから……えと、感覚を研ぎ澄ませる、んでしたっけ?」
サカキ「はい、そうです。ほら、耳をすませてごらんなさい」
ナナシ「耳を?何か聞こえるんですか?(目を閉じて音に集中してみる)」
サカキ「聞こえませんか?」
ナナシ「んー………???」
サカキ「……貴方は一体何を聞き取ろうとしてるんですか?」
ナナシ「え?……あ、が、ガイアの声……?」
サカキ「……ではその調子で、もう少し遠くの音まで聞いてみましょうか。ほら、頑張れますか?」
ナナシ「(まじかよ当たってたのかよ)は、はいっ!」
サカキ「いい子ですね。それでは、まずはこの部屋の外にある音を拾ってみましょう。できる限り集中して、外の世界に意識を広げてください」
ナナシ「……現実に目を向けなさいこの引きこもりが!って正直に罵ってくれても大丈夫ですよ?むしろご褒美ですよ?」
サカキ「はいはい、いいから早く(ナナシの頭を掴んで部屋の壁に押し当てる)」
ナナシ「いたいいたいいたい!こういうご褒美は求めてません先生!せんせぇ!頭ゴリゴリいってる!頭ゴリゴリいってて何も音が聞こえません!」
サカキ「はぁ、仕方ありませんね……それでは私がサポートしてあげましょう。ほら、壁をすり抜けられるようにしてあげたので、これで外に出られますよ」
ナナシ「えっ?いつの間にそんなことに?……お、おお…すり抜け…られた気がします!でもこの部屋の外はどんな風になっているんですか?」
サカキ「そうですね、一言で言うなら『無』でしょうか」
ナナシ「……あの、サカキさん……つかぬことをお聞きしますが、もしその『無』に出たら、私はどうなりますか?」
サカキ「消えてしまいますね。跡形もなく」
ナナシ「……サカキさん、あなたがその気なら、私にも考えがありますよ?」
サカキ「ほう。どのような?」
ナナシ「今からこの『夢』のジャンルを『官能小説』に変更します……そうすると、どうなるかわかりますか?」
サカキ「……(眉間にシワを寄せながら)……さっぱり分かりかねますね。教えていただけますか?」
ナナシ「ふふふ……なんと、ジャンル変更の強制力により、サカキさんは、私に愛を囁くことしかできなくなります!」
サカキ「……なっ?!」
ナナシ「んふふ……私を消そうとした報いです!恐怖に戦いてください!レッツ、ジャンル変更!」
アナウンス《ジャンルを『ジャンル:官能小説』に変更致しました。》
ナナシ「ふははは!どーですか!」
サカキ「……」
ナナシ「……あれ?サカキさん?……先生?あれ?」
サカキ「……っ」
ナナシ「あ、え…だ、大丈夫ですか?…ごめんなさい、元に戻しますか?どうしよ…(オロオロ)」
サカキ「……はぁ。ナナシさん」
ナナシ「にゃ!?………は、はい!大丈夫ですか?気分悪くないですか?」
サカキ「(ため息)貴方という人は本当に……」
ナナシ「はい、すみませんでした!(土下座)えと、ジャンル戻しますね……?」
サカキ「(ナナシの腕を掴む)」
ナナシ「ひっ!先生?サカキ先生?もしかして私を『無』に放り投げようとしてます?その前にジャンル戻しますから返事して下さいっ!」
サカキ「……ナナシさん」
ナナシ「……は、はい……(ドキドキ)」
サカキ「……(キス)」
ナナシ「!!????」
アナウンス《『ジャンル:官能小説』を削除しました。》
ナナシ「………なーんーでー一気にキスなんですか!もーーー!私のせいですけど!ごめんなさい!!」
サカキ「……(呆れ顔)」
ナナシ「うっ…呆れられてる…でもちょっとくらい愛を囁いてくれてもいいじゃないですか…『可愛いね』くらい言ってくれてもいいじゃないですかぁ…なんでキスなんですかぁ……」
サカキ「はぁ……(深い溜息)」
ナナシ「……ごめんなさい」
サカキ「(ナナシの頭を撫でる)」
ナナシ「!!」
サカキ「まあ、少し意地悪をしすぎてしまったかもしれませんね」
ナナシ「え、優しい…?(ジャンル確認)よし、官能小説じゃないな、うん…」
サカキ「……さて、そろそろ目を覚ましていただきましょうか」
ナナシ「え、あ……つまり、夢は終わり、ですか?」
サカキ「えぇ。目を開ければきっと現実に戻っていますよ」
ナナシ「えー…やだー…やです、もっと遊んで下さいよー」
サカキ「ダメですよ。貴方にはまだまだ強くなってもらう必要があるんですから。ほら、起きなさい」
ナナシ「あ、普通に無駄話やめろって意味でしたか。良かったー『現実逃避するなこの引きこもり!』って言われたのかと思いましたーわーい!がんばって強くなります」
サカキ「(冷たい眼差し)」
ナナシ「なんでしょうね、もういっそ嬉しいですその冷たい視線(でもこの人、さっき私にキスしたんだよなぁ…)」
サカキ「……では、最後にもう一つだけアドバイスをしておきますね」
ナナシ「最後なんて言わないで下さい。なんですか?」
サカキ「貴方のその能力は、まだ不完全です。使いこなすためには練習が必要です。これから毎日、私が指定する時間と場所で訓練を行いましょう」
ナナシ「おお、特訓みたいですね!それはいつですか?」
サカキ「今日と同じ時間にこの場所へ来てください」
ナナシ「はーい!あ、最後に聞かせて下さい!私とのキスどうでした?サカキさん」
サカキ「……は?(真顔)」
ナナシ「私とのキスの、感想です(真顔)」
サカキ「……『無』ですね」
ナナシ「にゃあああああ!!!」
サカキ「(鼻で笑う)」
ナナシ「はぁ、まぁいいです……初キスでもないですし」
サカキ「……は?」
ナナシ「え?」
サカキ「……いえ、なんでもありません。それではまた明日。くれぐれも遅刻しないようにお願いしますよ。……ナナシさん?」
ナナシ「はーい!明日もよろしくお願いします!(ぺこり)」
サカキ「(苦笑)」
――――――――
次の日
ナナシ「こんにちはーサカキ先生」
サカキ「……おや?ナナシさん?どうされました?」
ナナシ「…え?なんのことですか?」
サカキ「……まさか、忘れたとは言いませんよね?昨日の約束を」
ナナシ「忘れてませんよ!だから来たんですもん。さて、今日も特訓しましょうー」
サカキ「……はぁ。まあ、良いでしょう。今日は何を?」
ナナシ「え?えーっと、まず、あれからちゃんと考えたんですが。先生が言うには、私はここから出た方がいいんですよね?そしてその力を特訓により得るべきだ、と。」
サカキ「えぇ。その通りです」
ナナシ「でも外は『無』で、そこに出たら私は消滅しちゃうんですよね?……えと、もしかして私は消滅を望まれているんですか?」
サカキ「……はい。それも、今すぐにでも」
ナナシ「あらら、当たっちゃった(苦笑)もう、先生もイジワルですねぇ……言ってくれたら良かったのに」
サカキ「……申し訳ございません」
ナナシ「んー、無理に特訓せず、いますぐ私を消すというのはどうでしょう?」
サカキ「……(呆れ顔)」
ナナシ「どうしてその顔?手っ取り早いじゃないですかぁー」
サカキ「……ナナシさん。貴方は、自分が消えるということを本当に分かっていますか?」
ナナシ「わかってすよ?でも私にとってそれは『サカキさんと喋られなくなる』って意味しかないですけど」
サカキ「……(深い溜息)貴方という人は……」
ナナシ「だから、もうサカキさんと楽しく喋られないなら、消えたも同じです。ひと思いに消してくださいなー」
サカキ「……(呆れ顔)」
ナナシ「ふふ、もうその呆れ顔は見飽きました〜」
サカキ「……仕方ありませんね。ナナシさん、貴方に最後のアドバイスです」
ナナシ「ん?なんですか?」
サカキ「私に触れなさい」
ナナシ「? 感覚を研ぎ澄ませて、触れる、というやつですか?」
サカキ「いいえ、違います。もっと簡単ですよ」
ナナシ「? 簡単…ですか?手を握るとか?」
サカキ「いいえ。もっと簡単なことです」
ナナシ「なぞなぞは苦手なんですよぅ…」
サカキ「……はぁ。ではヒントを出しましょう」
ナナシ「お願いします!」
サカキ「……貴方は、いつも私のことをなんと呼んでいますか?」
ナナシ「サカキさん」
サカキ「そうですね。では、次は質問を変えましょう。貴方は、私に触るとどんな感じがしますか?」
ナナシ「嬉しくなります、あとちょっとドキドキします」
サカキ「……他には?」
ナナシ「えっ……?んー……楽しい?面白い?」
サカキ「……そうですね。では、最後にもう一つだけ質問させていただきましょう」
ナナシ「はい」
サカキ「貴方は、私のことが好きですか?」
ナナシ「はい」
サカキ「……(微笑み)」
ナナシ「好きです」
サカキ「……(苦笑)」
ナナシ「あれ?何か間違えました?」
サカキ「いえ、正解です。ただし……」
サカキ「貴方の好きは、親愛です」
ナナシ「……ドキドキするのも親愛?」
サカキ「そうですね」
ナナシ「む、もしかして子供扱いしてます?」
サカキ「……いいえ?」
ナナシ「どうしたら、親愛だけじゃないって信じてくれますか?」
サカキ「……さぁ。私にも分かりません」
ナナシ「その返事はずるいです」
サカキ「……申し訳ありません」
ナナシ「キスしたらいいですか?」
サカキ「……そうですね」
ナナシ「じゃあちょっとしゃがんで下さい、届かないので」
サカキ「……これでよろしいですか?」
ナナシ「……(触れるだけのキスをする)……どう、です、か?(赤くなった耳と頬)」
サカキ「……はい。合格です(抱きしめる)」
ナナシ「ふふ、はい(サカキの胸元に顔を埋める)それで、これでどうなりますか?私は消える必要は無い、と?」
サカキ「……ええ、もちろん(ナナシの頭を撫でながら)これからもよろしくお願い致しますね。……ナナシさん」
ナナシ「はい、よろしくお願いします(ニコっと笑って)さあ、そろそろ離してくださいよう、サカキさん」
サカキ「嫌です(さらに強く抱き締める)」
ナナシ「んんん!?あのお…えと……は!お話しましょ?たとえば…あ、この空間には何があるんですか?」
サカキ「何もないですよ」
ナナシ「何もなければ作ればいいんです!(と言うと目の前にソファーが現れた)はい、ちゃんと座りましょ?並んでね?ね?」
サカキ「……はぁ(素直に座る)」
ナナシ「(はーやっと放してもらえた)……改めてなんですが、もとより、サカキさんが私のこと…あの、本気でアレだとは思いませんでした…」
サカキ「……おや、気付いていなかったんですか?私はてっきり、ナナシさんが私の気持ちも理解した上で、あえて鈍感を演じているのかと思っていましたが」
ナナシ「何かの罠かなー?って思ってました……官能にしてもすぐ襲ってこなかったし(ボソ)」
サカキ「聞こえていますよ(呆れ顔)」
ナナシ「フラグ立ってるなら、あの瞬間に私は襲われてアハンウフン展開だろうなぁと(開き直る)」
サカキ「……貴方は、もう少し自分の身体を大切にした方がいいと思いますよ」
ナナシ「酷くされるの好きなんです(ニッコリ)」
サカキ「…………(溜息)全く、貴方という人は……」
ナナシ「軽蔑しましたか?」
サカキ「いいえ。むしろ興味が出てきましたよ(悪い笑顔)」
ナナシ「それは良かった……ちなみに、誘ってます。この会話も、ソファーを出したのも」
サカキ「(苦笑)これは一本取られてしまいましたね」
ナナシ「もう、そこは苦笑するとこじゃないですよぅ……楽しいなあ、サカキさんと喋るの」
サカキ「私もですよ(微笑み)」
ナナシ「その余裕の顔を、余裕なくしてやりたくなります」
サカキ「それはそれは。楽しみですね。では、私からナナシさんへ質問です」
ナナシ「え?なんですか?」
サカキ「ナナシさんの、好きな食べ物はなんですか?」
ナナシ「ここに来てその質問…?んー…ベタですが、プリンが好きです」
サカキ「なるほど、では嫌いな食べ物は?」
ナナシ「ん……ウニ…ですかね、ビジュアルと味が苦手です」
サカキ「ふむ。では、動物で言うと?」
ナナシ「好きな動物は猫、嫌いな動物は虫全般ですね」
サカキ「ほう。では、苦手なものは?」
ナナシ「苦手なもの?んー……一人は苦手です」
サカキ「では、得意なことは?」
ナナシ「……思いつきません(苦笑)」
サカキ「苦手な相手はいますか?」
ナナシ「私から苦手と思う相手はそんなにいませんね。えと、これなんですか?カウンセリング?」
サカキ「そうですね。貴方は少し自己評価が低いように感じましたので。何かあるでしょう?苦手なもの」
ナナシ「苦手…人と競うのは苦手ですね、だから、私をライバル視とかしてくる相手はちょっと苦手です」
サカキ「……他にはありますか?」
ナナシ「他に…?苦手な相手の話でいいですか?」
サカキ「ええ、構いませんよ」
ナナシ「あとは、性的に見られるのは苦手ですね。こっちにその気がないと特に。それに、劣等感を抱かれるのも苦手です。逆に、期待をかけられるのも苦手ですが。」
サカキ「……他には?」
ナナシ「……あまり他人に根掘り葉掘り聞かれるのも、苦手です」
サカキ「そうですか、それならば大丈夫ですね」
ナナシ「なにが大丈夫なのか聞いてもいいですか?」
サカキ「いえ、なんでもありませんよ」
ナナシ「……もう(ため息)聞くだけ聞いて、内緒にされると余計気なるんですが」
サカキ「すみません。つい癖で。さて、次はナナシさんが私に聞きたいことはありませんか?」
ナナシ「ありますよ〜ではお言葉に甘えて……どうして私を消そうとしたんです?(笑顔で)」
サカキ「……(苦笑)それは、どういう意味でしょうか」
ナナシ「そのままの意味です、サカキさんが、私が消えた方がいいと判断した理由を知りたくて」
サカキ「……なにもありませんよ」
ナナシ「止めましょうかこの質問、ね(笑顔)じゃー先生、質問じゃなくて、キスして下さい」
サカキ「……何故?」
ナナシ「して欲しいから……でしょうか?ダメですか?」
サカキ「……はぁ。仕方ないですね(軽いリップ音)これで満足ですか?」
ナナシ「んふふ、はい。面倒くさそうにキスしてくれる先生好きです」
サカキ「(呆れ顔)……どうも」
ナナシ「なんか押せば流されてくれそうですよね先生………えっちなことします?(コソっと耳元で)」
サカキ「しません(即答)」
ナナシ「質問できました。サカキさん性欲無いんですか?」
サカキ「人並みにはありますが」
ナナシ「据え膳ですよ?ホラホラ(スカートをゆっくりたくし上げ)」
サカキ「……やめなさい(手を掴む)」
ナナシ「どうしてです?(サカキに顔を近づけ)」
サカキ「……どうしても、です(ナナシを押し退ける)」
ナナシ「…………はぁーーーっ(ソファーに倒れ込み)なんでーーー??」
サカキ「……(困ったように微笑み)貴方は、もう少し恥じらいを持った方がいいと思いますよ」
ナナシ「それを笑って言うから私が自重しなくなるんですよ?……叱るなり嫌悪するなりすればいいじゃないですかぁ」
サカキ「それは……貴方の反応を見て楽しむのも一興かな、と思いまして」
ナナシ「あ、楽しいんだ……(ボソリと言いながらちょっと嬉しそう)」
サカキ「聞こえていますよ(苦笑)」
ナナシ「聞かせてるんです、こういう反応されると『愛されてる』ってぐらりときません?」
サカキ「……いいえ、全く(きっぱりと否定)」
ナナシ「なーんーでーーーー!!!(ソファーの上でジタバタ)」
サカキ「ふむ。そういうところも可愛らしいですね」
ナナシ「やめろ、素の反応だったやつを褒めないで」
サカキ「本心ですよ?」
ナナシ「きーっ!!!タラシ!タラシ教師!」
サカキ「ふふ、そんなに怒らないでください」
ナナシ「楽しそうにしてんじゃねーーーっ!!!!……すいませんちょっと我を忘れました……はぁ」
サカキ「落ち着いたようで何よりです(微笑む)」
ナナシ「はぁ……楽しいなあ……この時間が楽しいから困る……」
サカキ「……そうですね。私も、楽しいです」
ナナシ「………タラシ、ばか」
サカキ「おや、拗ねてしまいましたか?(ナナシの頭を撫でる)」
ナナシ「拗ねてないです………あ、嘘、拗ねてるからご機嫌取りしてください、ちゅーとか」
サカキ「……貴方は、本当に面白いですね。それで、私は何をしたら?」
ナナシ「え?これ、キス以上もしてくれる流れですか?もしかして」
サカキ「さて?それは、ナナシさんの態度次第ですね」
ナナシ「餌ぶら下げんな!……えーっと、とりあえず脱ぐか、よいしょ」
サカキ「いきなり服を脱がないで下さい(ナナシの身体を押す)」
ナナシ「先生も以前いきなり脱ぎましたよ?お忘れですか?」
サカキ「……あれは、不可抗力です」
ナナシ「『これは効かないのか』って言われて『なんだコイツ』と思いましたが、今は同じ気持ちです」
サカキ「……うるさいですね(ナナシを睨む)」
ナナシ「あ、嬉しい、もっと睨んで、えへへ」
サカキ「ああ、なるほど、こういうのが好きなタイプですか」
ナナシ「言ってるじゃないですか、酷くされるのが好きなんですって。態度も行為も」
サカキ「……変態(冷たい目)」
ナナシ「そして、そんな態度の人を屈服させるのも好きなんですよねえ(抱きつく)」
サカキ「……(ナナシを押し退けようとするが、力が強すぎて離れられない)」
ナナシ「いいですよ?強めに突き飛ばしても」
サカキ「……いえ、このままで(苦笑)」
ナナシ「そうですか、でもまぁ…私もこのままでいいです、酷いことするのは趣味じゃないですし」
サカキ「……では、ナナシさんは一体どうしたいのですか?」
ナナシ「どうしたいと思いますか?さっきのカウンセリングもどきでどんな結果が出ましたか?」
サカキ「……そうですね。貴方は、とても複雑な方だと分かりました。あとは、やはり子供っぽい部分もあると」
ナナシ「ふふ、よく言われます、あとは?」
サカキ「……甘えたがりな面があるとも思いました」
ナナシ「そうですね…まだありますか?」
サカキ「加えて、意外と寂しがり屋だと思いますよ、貴方は」
ナナシ「うんうん、意外ではなく、寂しがりですよ私は」
サカキ「……何故そこまで自信満々なのか理解に苦しみますが」
ナナシ「寂しがりじゃなかったら、ここにいないでしょ?」
サカキ「……それもそうですね(微笑む)」
ナナシ「はー……なんでこんなにフラグ立てまくってえっちな展開にならないんでしょうかねぇ……(ため息)」
サカキ「それは……私が聞きたいくらいですよ」
ナナシ「(バッと顔を上げて)えっ!なっていいんですか?」
サカキ「なりませんよ(キッパリ)」
ナナシ「えーーーなりましょうよ〜〜なんでダメなんですかーーーあ、もう一回ジャンルを『官能小説』に変えますか?」
サカキ「変えません(苦笑)」
ナナシ「そうですか、残念です……」
サカキ「……そういえば、一つ気になっているのですが」
ナナシ「ん?はい、なんですか?」
サカキ「どうして『人外』なのに『少女』の姿なんです?」
ナナシ「可愛いからです。私の本質は人外ですが、ガワは好きに変えられるんですよ。だからほら、猫になったり少女になったりするでしょ?」
サカキ「なるほど、便利なものですね」
ナナシ「ちなみに『中身』もちゃんと再現してますよ、ほら(と、口を開けて中を見せる)内蔵も見せられたらいいんですけど…」
サカキ「やめなさい(口を閉じるように促す)」
ナナシ「んぐ。…少女はお嫌ですか?もうちょい妖艶系のお姉さんな見た目にもなれますよ?」
サカキ「そういう問題ではありません(呆れ気味)」
ナナシ「えっ、抱くなら柔らかくて豊満な方がいいものなんじゃないんですか?」
サカキ「……そもそも、私は女性を抱く予定は無いので」
ナナシ「………私は少年にもなれますよ?」
サカキ「………………(無視)」
アナウンス《ジャンルを『ジャンル:官能小説』に変更致しました。》
ナナシ「おっと手が滑りました(棒読み)」
サカキ「……(無言でナナシを睨みつける)」
ナナシ「ちなみに今の私は短髪白髪金目の少女です。セーラー服で、あまり豊満な方ではありません、あと、体内も、ちゃんと女のコです(ススス、とスカートをたくし上げる)下着は白ですねぇ」
サカキ「……(頭を抱える)」
ナナシ「この下着の『ナカ』もちゃんと機能しますが、どうでしょう?(小首をかしげ微笑む)」
サカキ「……どうもしませんよ(ため息)」
ナナシ「………ダメかぁ……(へちゃぁ)」
サカキ「何を期待しているのですか」
ナナシ「官能小説的な展開です」
サカキ「……はぁ」
ナナシ「サカキさんはどうして官能展開にならないんだと思いますか?」
サカキ「……そうですね、やはり私の態度に問題があるのではないですか?」
ナナシ「鉄の意思ですねぇ……」
サカキ「……そんなつもりはないのですが」
ナナシ「そうですよねぇ、そんなものは必要無いくらいに私に魅力が無いんでしょうねぇ」
サカキ「いえ、そんなことはありません」
ナナシ「いいですよ、まぁ、見た目は少女ですしね。あと卑屈なこと言ってすみませんでした、こういう誘い方は卑怯なので忘れて下さい(寂しげ)」
サカキ「……いえ、貴方は十分魅力的だと思いますよ(ナナシを見つめる)」
ナナシ「忘れてくださいってば」
サカキ「無理です」
ナナシ「……ふふ、はぁ…楽しいなあ…」
サカキ「……そうですね(微笑む)」
ナナシ「……(抱きついて、サカキの首元に頬ずりする)」
サカキ「……(頭を撫でる)」
ナナシ「ん、けっこう甘やかしてくれますね」
サカキ「そうですか?いつもこんな感じだと思いますが」
ナナシ「そうでもありません、押し退けられたり、冷たい目で見られる事の方が多いですよ?」
サカキ「……そうですね」
ナナシ「もっと撫でて」
サカキ「……はい(ナナシの髪を優しく触りながら)」
ナナシ「はー……何か状況を動かしたいですね。先生は喧嘩か官能展開か、どっちがいいですか?」
サカキ「何故そうなりますか」
ナナシ「派手に動くでしょ?どっちも」
サカキ「……はぁ、では、私から質問をしてもいいですか?」
ナナシ「ふふふ、選択を迫ると質問してくる癖?みたいなもの好きですよ。はいどうぞ。あ、抱きついたまま答えますのであしからず」
サカキ「ええ、ありがとうございます(微笑む)貴方は何者ですか?」
ナナシ「人外ですよ。人外で、猫で、少女で、それ以外の何かです」
サカキ「そうではなく、その正体についてです」
ナナシ「そんなものありませんよ、今ここで喋ってる私が全てです」
サカキ「……そうですか」
ナナシ「えと、なにを期待されていたんでしょう?もしかしてここで私が『ふははは、見破られてしまっては仕方ない、吾こそは〜』って正体を明かすムーブをした方が良かったですか?」
サカキ「いえ、結構です」
ナナシ「む、では何を求められていたんですか?要相談ですよ?こうして欲しいと言われればやりますよ?今なら少女の身柄が思うままです。わお、お買い得」
サカキ「……特に何も求めていません」
ナナシ「あはは、でしょうね。求めるのはいつも私からです」
サカキ「……そうですね」
ナナシ「嫌じゃないですか?」
サカキ「嫌なら、ここに来ませんよ」
ナナシ「その返事はずるいと思う」
サカキ「……そうでしょうか」
ナナシ「安直に私を喜ばせる、ずるい返事です」
サカキ「……それは、困りましたね(苦笑)」
ナナシ「そういえば、サカキ先生は私が『人外』である点を気にしますが、何か理由があるんですか?」
サカキ「……そうですね、貴方が『ナナシ』と名乗る前から気になっていました。……いえ、違うな。ナナシと名乗ってからも、ずっと、気になっていたんです」
ナナシ「へぇ……どんなことが気になってたんです?」
サカキ「貴方の『中身』が人間であることです」
ナナシ「仮に中身が人間だったらどうなるんですか?」
サカキ「……さぁ?どうもなりませんよ」
ナナシ「ですよね?……じゃあどっちでもいいじゃないですか」
サカキ「……まぁ、そうなのですが」
ナナシ「まぁ、正直言うと人間なんですけどね!えへへへ!(正確には、人だった、だけど)」
サカキ「……(ため息)」
ナナシ「えっその反応なんですか?ダメですか?落胆ですか?安心ですか?ねーねー先生ーねーねーねー?」
サカキ「……うるさいですね」
ナナシ「んんっ……ドキっとしました今の…!どうしてくれるんですか?私が新しい性癖に目覚めたらどうするつもりですか???」
サカキ「知りませんよそんなこと……」
ナナシ「おっと一気に塩対応になりましたね…やっぱ人間だと白状したのは悪手だったのかなぁ……人間はお嫌いですか?」
サカキ「別に、そういうわけではありません」
ナナシ「じゃあどういうわけです?」
サカキ「…………私には友人がいませんでした。貴方のように騒がしい人は初めてで、少し戸惑っているだけです」
ナナシ「あはは、確かに孤高の人っぽいですし、他人とこんなテンションで喋る人っぽくもないですよね、先生は……って、待って下さい。人と分かってからのその対応ってことは、まさか人外と名乗っていたから動物と喋ってるとでも思ってましたか?だから気を抜いていた、と?いやまぁそりゃ猫の姿してましたけどね?」
サカキ「……そうかもしれません(ナナシを見つめる)」
ナナシ「なるほど…こうやって撫でてくれるのも、動物感覚だったんですねぇ」
サカキ「……そうですね」
ナナシ「そりゃ私がいっぱい言ってもだめですよね、動物相手に性的なんてなりようもない、し……はぁ……」
サカキ「……どうかされましたか?」
ナナシ「そういう雰囲気になりたいですけど、動物扱いされるのもちょっと嬉しくて、その狭間に迷っています」
サカキ「……そうですか」
サカキ「ところで、私はもうそろそろ帰ろうと思いますが」
ナナシ「えっ!…いや、引き止めるのもアレですよね…わかりました!またね、先生!」
サカキ「……ええ、それでは」
顔は微笑みの形のまま、ぱたりとドアを閉めるサカキ。
しかし閉めた途端に出るのは大きなため息だった。
そして徐に、いつの間にか室内に現れた本棚から一冊本を取り出す。
ペラリとページをめくるが、十数ページともいかずに、また本をパタンと閉じてしまった。
そして——
サカキ「……ナナシさん、何をしているんですか?」
サカキ「(後ろを振り向く)」
ナナシ「…………にゃ、にゃーーん?(猫です、今の私は猫)」
サカキ「……はぁ」
ナナシ「ごめんなさい(伏せ状態の猫)」
サカキ「……いいですよ、慣れていますから」
ナナシ「……嫌いになった?」
サカキ「さぁ?どうでしょうね?(微笑む)」
ナナシ「膝の上にいていい?猫のままで、喋らないから」
サカキ「……どうぞ」
ナナシは猫の姿のまま黙ってサカキの膝に乗ると、箱座りでそこに落ち着く。
サカキ「(ナナシの頭を優しく撫で始める)」
サカキ「……貴方はどうして私を頼ったのですか?」
サカキ「(ナナシの尻尾を指先で弄ぶ)」
ナナシは答えない。
サカキ「……貴方は何故私を信用するんですか?」
サカキ「(ナナシをじっと見つめる)」
サカキ「……貴方は、私を恨まないのですか?」
サカキ「(ナナシの頬を触る)」
サカキ「……貴方は、怖がらないのですね」
サカキ「……貴方は、私のことを理解しようとしてくれているんですか?」
猫は顔を上げると、ペロリとサカキの頬を舐めた。サカキはそれを静かに受け入れる。そして、ナナシの瞳の中に映るサカキ自身の姿をぼんやりと眺めていた。
ナナシ「にゃー」
サカキ「……はい?(ナナシの方を見る)」
猫は繰り返しにゃーにゃーと鳴き続ける。サカキはそれに答えるようにナナシの名前を呼んでみた。すると、ナナシは満足そうに目を細めてから、サカキの胸元へとすり寄ってくる。
サカキ「(ナナシの頭に触れながら)……どうしたのですか?」
猫はサカキの膝から降りた。トトトと数歩歩くとその姿が少女のものになる。
ナナシ「………相手に『理解して欲しい』って思う気持ちって」
サカキ「……?」
ナナシ「愛に似てませんか?」
サカキ「……そうかもしれませんね」
ナナシ「んふふ、喋っちゃったから本当に帰りますね。バイバイ、サカキさん」
手を振り、今度こそ音も無くその場から消えるナナシ。
サカキ「……ええ、さようなら」